御宅草紙 -キングインター妄想日誌-

2015年5月27日

ベルリン・フィル最新情報!
【特別寄稿】速報!ベルリン・フィル首席指揮者総選挙

読者もご存知の通り、5月11日のベルリン・フィル次期首席指揮者選挙は、結果なしに終わった。団員総会はこの日、イエス・キリスト教会で朝10時から始まったが、筆者も「いつ決まるのか」と待ち構えていた。しかし、待てど暮らせど発表はない。「遅くとも午後5時くらいには…」という予想を裏切り、オケ代表が記者団の前に姿を現したのは、何と午後9時半を回った頃だった。11時間という長大な時間を掛けても、コンクラーヴェの「白い煙」は上がらなかったのである。

この結果を聞いた筆者は、正直なところかなりホッとした。プレスから有力視されていたティーレマンとネルソンスが、今のベルリン・フィルにふさわしいとは思えなかったからである。
(ちなみにベルリン・フィルは、候補者名を一切発表していない。ここでの話は、あくまで独メディアでの観測を元にしたものである)

前者は年齢的には適齢期で、指揮者としても円熟期にある。ドイツ音楽の伝統を標榜し、一般的には適任者と思われるだろう。しかし彼は唯我独尊で知られ、これまでにも自分のオケやオペラハウスと喧嘩別れを繰り返してきた。その意味で、個々のメンバーが強烈な自我を有するベルリン・フィルとは、噛み合わないような気がする。

一方ネルソンスは、天才ながらどうにも若すぎて、団員たちを長期的に御して行けるとは感じられない。指揮者とオーケストラの関係とは、結局はリーダーシップの問題である。団員がついて来るかが肝要であり、強面のベルリン・フィルは、若い指揮者には暴れ馬過ぎる。両者の音楽的、人間的力がバランスしないかぎり成功しないし、それは結局本人の威厳如何だろう。

個人的な邪推に過ぎないが、ヤンソンスが選挙3日前にバイエルン放送響の契約を延長していなければ、彼に決まっていたかもしれない。彼は団員から厚く敬われている(=オーソリティであり得ている)だけでなく、音楽性・人間性の点でも、現在最適任者である。もちろん年齢や体調上の懸念はあるが、昨年後半からは大幅に復調し、事実健康と呼べる。ティーレマンやネルソンスよりは、マイナス要素は少ないだろう。そのため、オケ内にもシンパが多かったはずだが、この「ドタキャン」により、当てが外れてしまったようだ。

とは言うものの、筆者にとっては、実はヤンソンスでさえ「選ばれて欲しい人」ではなかった。彼のように完成された音楽家では、変化が見込めないため、やや面白くないように思われたのである。端的に言えば、ヤンソンスが就任したら、ベルリン・フィルの未来はおおよそ予想がつく。筆者が求めているのは、単にオケの力を受け止め、対抗できるだけでなく、新しい音楽的カラーを引き出せる人である。ベルリン・フィルと化学変化を起こし、我々の予想を越える新局面、革新性を見せてほしい。そんな活力とヴィジョンを持った人材が、1年以内に見つかるのか。個人的には、事実上棄権したキリル・ペトレンコ(昨年12月の定期を直前キャンセルしている)や、ここ数年で「男を上げた」ダニエル・ハーディング(彼のチャンスは微小だろう、とは思いつつも)にポテンシャルを見ているのだが、彼らが再考慮されることはないのだろうか?

text by 城所孝吉(音楽評論家・ベルリン在住)