御宅草紙 -キングインター妄想日誌-

2015年7月31日

ブラームスはお好き?

私がこの世で最初に聴いた音楽はブラームスだったらしい。母がブラームス好きで、いつもその子守歌をうたって聴かせたという。長じて私はクラシック音楽好きになったが、意外にもブラームスは特に苦手だった。ピアノ好きにもかかわらず、音楽がなかなか進まぬ後期の小品集にイライラし、管弦楽曲の厚ぼったい響きも鬱陶しく好みでなかった。それゆえ、なるべく聴かない算段をしてきた。

NS-12

しかし最近年をとって成長したのか、ブラームスの音楽が良いと思えるようになった。というより心に染みる。ヴァイオリン・ソナタは3曲とも好きだが、特に第2番は泣けてくる。最近では郷古廉(ごうこすなお)氏が上田晴子さんのピアノと共演したアルバム(Ysaye records NS-12)が素晴らしい。20歳の時の録音だそうだが、比べるのは失礼とは言え、20歳の頃の私がブラームスを何も理解できなかったことを考えると、この若者は凄すぎる。自分の息子ほどの年齢の若者に、ブラームスの魅力を教えてもらった。

ACC-20325DVD

ACC-20325DVD

HMC-902196

ALT-288

もうひとつ目から鱗が落ちる思いだったのは、アンドリス・ネルソンスがルツェルン祝祭管弦楽団を指揮した「セレナード第2番」と交響曲第2番のDVD(ACC-20325DVD)。交響曲第2番はムラヴィンスキーとレニングラード・フィルの1978年ウィーン・ライヴ(ALT-288)の神がかり的演奏に圧倒され、他の録音はいらないと思っていたが、ネルソンスはやはりただものではない。迫力といい、語り口の巧さといい、若手の中で図抜けていると思った。1978年生まれの若者にブラームスの魅力を教えてもらった。私がブラームスを避けてクラシック音楽を聴きまくっていた頃に生まれた人に。

PRDDSD-350103

ムラヴィンスキーといえば、Praga Digitalsから出ているレニングラード・フィルとの第3番 (PRDDSD-350103)も素晴らしい。しかし驚きなのはカップリングされているリヒテルとの「ピアノ協奏曲第2番」だ。リヒテルのピアノは凄いのひとことに尽きるが、問題なのはオーケストラ。冒頭のホルンが派手にひっくりかえっている(それも一度ならず二度までも)のだ。ライヴとはいえ、当時のホルンのトップは名手ブヤノフスキーのはずで、どうしちゃったんだろう。あとでムラヴィンスキーにこっぴどく怒られただろうな…普通の奏者なら死ぬほどの恐怖だったはずだ。こればかり聴いていたら、正しく吹けている方が間違っているように思えてきた。いかんいかん。

苦手だったブラームスが、何故心に染みるようになったのだろう。そういえば以前、ある先生が「エルガーの交響曲が実は〈愛のあいさつ〉で出来ているのと同様に、ブラームスのは〈子守歌〉で出来ている(逆だったかもしれない)」ということをおっしゃっていた。ブラームスの諸作にちりばめられた〈子守歌〉の断片を聴きとることができるようになったのかもしれない。だとするとブラームスが心に染みるのは、新生児時代に退行しているか、それとも「三つ子の魂百まで」ということなのだろうか…使い方があっているかわからないけど。もっとたくさん聴いてくるべきだった。自分から扉を閉ざして損をしてしまった。

ところで、この世で最初に聴いた曲がブラームスの子守歌なら、人生最後に聴くのもこの曲がいい。ただし母は6年前に鬼籍に入ってしまったので、もう歌ってもらうことは叶わない。だとすれば妻……うーん、歌ってくれないだろうなあ(涙…)。

せめて妻と似た(できれば現状ではなく若い頃に)音楽家が奏してくれたら…。サルセードが編曲したハープ版とかならば最高なのだけど…

そんなハーピストが現れないかなあ…

(text by M)