★日本で知らぬ人ないポピュラーなピアノ曲〈乙女の祈り〉。ピアノを学ぶ人々にとってのひとつの目標、憧れの曲ですが、鑑賞用としても、その純で儚い世界に魅せられた経験のある方も多いはず。これはテクラ・バダジェフスカ(1834-1861)というポーランド女性が17歳の時に作曲し、当時世界的大ヒットとなりました。
彼女は典型的な一発屋作曲家とされ、しばしば他の作品にも興味が示されるものの生涯・作品ともに謎に包まれてきました。当アルバムは〈乙女の祈り〉をはじめバダジェフスカ作品を17曲録音、その生涯について書かれた解説書ともども史上初、世界唯一の試みとして日本から世界へ向け発信します。誰もが聴いてみたいと思うはず。
バダジェフスカの作品を見渡しますと、「祈り」と題された曲が多いのに気付かされます。〈乙女の祈り〉の成功に気を良くした彼女は、〈乙女の感謝〉〈第2の乙女の祈り〉〈母の祈り〉さらに〈乙女の祈り〉の返し歌として、最後に〈かなえられた祈り〉という続編も発表しましたが、いずれも全く聴く機会がありませんでした。しかし、どれも〈乙女の祈り〉に勝るとも劣らぬ魅力を発散します。
バダジェフスカの魅力のひとつは天性のメロディ・メーカーぶりで、どの曲にも惜しげなく美しいメロディを用いています。それがあくまで透明かつ上品に歌われるため、極上のBGMのようでもあります。また、彼女の音楽には不思議な癒しの効果があり、純で絶美な世界に浸ることで心が洗われるかのようです。
27歳で夭折したバダジェフスカにとり、「祈り」とは何だったのでしょう。敬虔なクリスチャンとしての宗教的祈り？好きな男性と結ばれることの祈り？健康への祈り？ポーランド独立への祈り？おそらくそのすべての祈りがこのアルバムに込められていて、その強い思いに胸をうたれます。
〈乙女の祈り〉はそのシンプルさゆえ、専門家筋から非難されることも多いですが、何と言ってもこれは17歳の作。円熟期の聖書のモチーフによる〈信仰〉〈希望〉〈愛〉を聴けば、凝った作曲技法と深い感情表現が見られ、非常に感動的でポーランド・ピアノ音楽史指折りの傑作と誰もが認めたくなるはず。
演奏は当アルバムがCDデビューとなるロシアの美少女ピアニスト、ユリヤ・チャプリーナ。バダジェフスカの｢乙女の祈り｣作曲時と同年代による共感とピュアな音色で、真似のできない世界を創りあげています。