【特別記事】「コリン・カリー&スティーヴ・ライヒ~ライブ・アット・フォンダシオン・ルイ・ヴィトン」アンディ・ドゥによる特別インタビュー

特別記事


コリン・カリー&スティーヴ・ライヒ~ライブ・アット・フォンダシオン・ルイ・ヴィトン
アンディ・ドゥによる特別インタビュー


(アンディ・ドゥ Andy Doe・・・アーティスト、音楽とテクノロジーを結び付けて発信する、英国のコンサルタント。クライアントには、ベルリン・フィル、ドゥダメル、フィルハーモニア管など世界の名だたるオーケストラ、アーティストがいる。)


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CCR-0003
コリン・カリー&スティーヴ・ライヒ~ライブ・アット・フォンダシオン・ルイ・ヴィトン

〔収録曲〕
ライヒ:
・クラッピング・ミュージック(1972)
・Proverb(ヴィトゲンシュタインの'警句')(1995)
・マレット四重奏曲(2009) 
・パルス(2015)
・木片のための音楽(1973)

コリン・カリー
スティーヴ・ライヒ 
コリン・カリー・グループ
シナジー・ヴォーカルズ
録音:2017年12月、パリ(ライヴ)

演奏風景をご覧頂けます
https://youtu.be/EytHJoFkldA


スティーヴ・ライヒとコリン・カリーが、アンディ・ドゥを聞き手に、
レーベル第3弾「コリン・カリー&スティーヴ・ライヒ~ライブ・アット・フォンダシオン・ルイ・ヴィトン」について語る


アンディ:このレコーディングはフォンダシオン・ルイ・ヴィトンでのコンサートのライヴ録音ですね。どのようにしてこの演奏が実現したのでしょうか?

ライヒ:まったくの驚きでした。演奏会の1年ほど前に、担当の方から、私のエージェントであるアンドルー・ロスナーを通じて連絡を頂きました。現代美術の美術館(パリのMOMA)がフォンダシオンで展覧会をすることになったというものです。MOMAはコレクションとしてドラミングのスコアの一部を所蔵しています。彼らが楽譜の一部を所蔵しており、それを展示しようということになり、それならば、私にもフォンダシオンに来てもらおうと彼らは考えたのです。しかしはっきりしなかったのは「何をするのか?」ということです、既に私のアンサンブルは活動していませんでしたので。彼らは私に「推薦する音楽アンサンブルはありますか」と聞いてきたので、私はためらいなく「コリン・カリー・グループだ」と答えました、そして驚くなかれ、全てが実現したのです。

アンディ:コリンさん、初めてこのプロジェクトについて聞いたとき、どう思われましたか?

コリン:スティーヴの作品がフォンダシオンに展示される、ということを電話で聞き、とてもエキサイティングなことだと思いました。展示そのものも素晴らしいですが、彼の作品がライヴで演奏される、しかもその中には私達が演奏できる作品も含まれるかもしれないというのですから。たび重なる話し合いと、コンサートがどのような流れになるか、どれくらいの長さなのか、ジグソーパズルのように試行錯誤しながら考え、3回のイベントを企画しました。本当に素晴らしい選曲だと思いますし、興味深い組み合わせだと思います。古い作品、あまり演奏される機会のない作品、そして新しい作品も含まれています。

アンディ:その一連の作品の中から、この1枚のディスクに収めるために削られた曲があると思いますが、その取捨選択の基準についてお聞かせいただけますか。

コリン:まず何よりも、パリで起こったことは信じがたいほどエキサイティングであった、と申し上げておきたいです。グループは燃えに燃え、あんなに集中した時間というのはなかなか味わえるものではありません。私達はあの場に48時間ほどしか滞在しませんでした。48時間、パリにいて、レストランにもどこにも行きませんでした。私達はただホールにいて、リハーサルや演奏をしました。それは大変密度の濃いハードなものでしたが、結果は素晴らしいものとなりました。
フォンダシオンはとても素晴らしいホールでした。チケットはすべて完売、熱心な聴衆の方々がつめかけてくださったので、あらゆる物事が集中の中で行われ、今そこで起こっていることに皆が興味津津でした。
アルバムのために曲を取捨選択することは簡単ではありませんでした。たとえば、私は今までやったことのない「Proverb」を演奏する機会を得られてとてもうれしかったのですが、それをCDにして聴くと、実際の表現のパワーが感じられないかなとも思いましたが、他のものをやめてもこれを入れる価値があると思いました。また、私は完璧で豪華で美しい作品であるPulseにぞっこんなのですが、今回の私達の演奏は、Nonesuchレコーディングとはまったく違っていました(もちろん、私はNonsuchの録音も非常に尊敬しています)。しかし、私たちのバージョンは別の方向を向いているので、私はNonsuchのものと対比するためにもこの作品を入れるのは白いだろうと思いました。それから他の部分はちょうどまさにぴったりの位置に収まりました。マレット四重奏曲は、本当にチャレンジングな作品ですが、非常にクリーンでぱりっとしたパフォーマンスになりましたので、本当にディスクに入れたいと思いましたし、ライヒ自身と一緒に演奏したクラッピング・ミュージックは、何が何でもアルバムに入れたいと思いました。

アンディ:ライヴパフォーマンスをCDにしようとするのは、稲妻をビン詰にするようなものですが、どのようにお感じになりましたか?

コリン:私はこのプロジェクトの第3番目の部分 -サウンドエンジニア、すなわちイアン、David(パリにいた)とDan - が、これらのレコーディングにみせた集中に非常に感銘を受けました。私が言いたいのは、まったくの別物だということです。グループはこれらの作品をレコーディングスタジオに持ち込み、これらの作品のスタジオバージョンを作ることも難しくありません。そして結果は非常に良いものになるでしょう。しかしライヴの録音とは違うのです。私たちはスティーヴの音楽をたくさん録音したいと思っていますが、すべての作品をライヴ録音することはないでしょう、しかしこのイベントを記録するのはとてもよいチャンスであるように思えました。歴史の中の特定の瞬間における歴史的な一連の演奏会。これらの作品を、新鮮で、生き生きと、キズのない、しかしどうしてもキズはつきものですが、その場の雰囲気が醸成するエキサイティングな空気と一緒にCDに仕上げる作業は、制作チームによってこの上なく素晴らしく実現されました。私は彼らにとても感謝しています。

アンディ:ライヒさん、一番最初にマスターテープをお聴きになっての感想はいかがでしたか?

ライヒ:クラッピング・ミュージックを聴いて、私が間違った箇所をすぐに発見しました。しかしその後Proverbを聴いて、・・なんというか・・・ノックアウトされました。私はこの作品を愛しています。コリンがまさしく言ったように、CDでは実演ほどパワーが感じられませんし、実際の演奏もパワーが足りない部分もあったかもしれません、それでも最近もこの作品はダンス・カンパニーのツアーで用いられるなど、演奏機会も少しですが増えました。Nonesuchで私のアンサンブルが録音したものとはまったく、実にまったく異なる演奏です。
 シナジーの歌い手たちは、私が手がけたもの全てに理想的な声をしています。2006年、いや、おそらく1996年以降、ずっとそうなのです。コリン・カリーは偉大なパーカッション奏者ですし、彼のグループに属しているメンバーも皆コリンと同じくらいに優れた奏者たちです。Proverbには、二つのヴァイブラフォンが登場し、もちろんそこも大事なのですが、これはパーカッション作品ではないのです。Pulseについても同じことが言えるでしょう。打楽器は存在せず、ピアノとベースがパルスなのです。なのでここではコリンは指揮者になっています。このことによって、新しくフレッシュで、エキサイティングで極限のことが成し遂げられています。最終的には胸を引き裂くような美しい演奏となっています。
私は空間も関係があると思います - 私は彼らにホールの中の音響状況はどうだったか尋ねたのを覚えています。卵のような奇妙な形をした部屋です。彼らによれば、日本の音響学者、アメリカでフランク・ゲーリーとディズニーホールをやった人物でもある豊田泰久氏も関わっていたそうです。彼はワールドクラスの人で、素晴らしい仕事をされています。
コリンが述べたように、IanとDavidは私が長年オーディオとサウンドの技術面で協力してきた人々であり、彼らはイギリス、いや世界中で最高の技術者だといえるでしょう。すべてがそろっていたのです。私のグループのレコーディングは、ほぼすべてスタジオでのライヴ録音でした。コリンが言ったように、ライブレコーディングであるということは、どこか「キズのある」ものではないか、と思われるかもしれません。ここにも実際にキズはあります。しかしこの演奏は、そうしたこまかなキズを補ってあまりあるほど素晴らしいものです。コンサートに行くとき、コンサート作品を作るのは、ミスタッチがどこかにあるかどうかの問題ではなく、全体的な力 – エモーショナルな力 - 演奏者との一体化 –演奏の感情的な効果です。それはここにもあります。素晴らしいアルバムです。とてもユニークです。

アンディ:演奏者が一人の作曲家の作品を演奏するためにアンサンブルを組むことは比較的珍しいことだといえるでしょう、しかもそのアンサンブルに作曲者がメンバーとして含まれていません。スティーヴの音楽の魅力について、お聞かせください。

コリン:音楽そのものが引力を持っているのです。磁石のようです。私はただ音楽に引っ張られているだけです。初めて聴いた時から催眠術にかけられたようなものです。アンサンブルを形成するという点では、それはあなたが引っ張るものではありません。数回リハーサルをして、そして次に遊ぶこと。アンサンブルと共に生きる必要があります。チームをとてもよく知る必要があります。素晴らしいことは、グループが非常に親密になったことです。それは素晴らしい人々の集まり、とても一生懸命で、完全に献身的で、とてもユーモアがあり、非常に集中していて、とても協力的な人たちです。これはチーム全体の努力です。非常にまれです。それを見つけるのは非常に難しいですが、我々はそれを間違いなく手に入れたのです。そしてそれをスティーヴの音楽に持ち込むには - もちろんそれは容易ではありません、 集中力と献身的な努力を必要とします – 妥協を捨てて、全身全霊で取り組む必要があります。 バンドのようなグループが必要なのです。本当にお互いのためにそこにいて、この音楽のために全身全霊を尽くす人たち。それがこれです。非常に特別なスキルが必要です。ノリも必要ですが、精度も重要です。

アンディ:スティーヴ、あなたはコリンがあなたの音楽を演奏することにとても協力的ですね。あなたが彼らに感じる魅力をお聞かせください。

ライヒ:彼らは、ただ単に音を出しているだけではありません。それはまさにコリンが言っていたものです。私は1966年から2006年までの40年間アンサンブルをしていましたが、私はアンサンブルのメンバーと連絡を取り合っています。長年知っている人々と演奏していると非常に親密に、家族のようになり、ギグ(日雇いで演奏する)のために現れる人々とは別のレベルで音楽(譜面)も、人間も読み取るのです。
コリンのグループのサム・ウォルトン、オーウェン・ガンネル、エイドリアン・シュピレットは皆素晴らしいプレイヤーであり、彼らは私が一緒にアンサンブルを組んでいたアメリカのミュージシャンに匹敵する英国のミュージシャンたちです。 2人のピアニスト、サイモン・クロフォード=フィリップスとフィリプ・ムーアも同じです。彼らは競い合うようにプレイします。私の音楽の多くは、場面場面で主になり影になり、ということを繰り返しますが、彼らはそれを楽しんでいる、というよりも彼らは自然とそうできるのです。
私は、コリンがなしたことは、私が以前に言ったことだと思います。ほとんどのソリストはソリストであり、彼らはソロコンサートをします、そして彼らは異なるレパートリーをします、そして時々彼らはレパートリーを依頼します。なぜコリン・カリーはそうしないのでしょうか。ええ、あなたは彼に尋ねましたね、そして彼は答えました。私はその恩恵を受けており、それは私が非常に賞賛に値するものであり、そしておそらく彼や彼のミュージシャンが常に進化するアンサンブルを作ることにもなります。彼らはコンサートのための単なるコールリストではないのです。私は関係者全員が恩恵を受けると思います、そして私はこれが長く続き、成功し続けることを祈ります。コリン一人だけとではなく、グループと一緒に仕事をするのは楽しいことです。

アンディ:クラッピング・ミュージックではあなたも演奏に参加していますね、これはアルバム中最も親しみやすい作品だと思います。コンセプトが非常に明確で、ほぼすべての人が演奏可能な楽器による演奏です。クラッピング・ミュージックの演奏を成功させるための秘訣は何でしょうか?

コリン:あるコンセプトが、小さな子供でも理解できるような短い2,3の文で説明できるというのは素晴らしいことです。普通の人でも何が起こっているのか理解できます。しかしこの作品を本当に実現するには、厳しいトレーニングを積んだミュージシャンが必要です。良い演奏に必要なものは、よいフィーリング、もしくはよいノリ(グルーヴ)、あなたがどのような方向に持って行きたいか、ということでしょう。特定のパターンは特定の種類のシンコペーションが含まれています、そして、それらを引き出すのが良いのです。バリエーションの組み合わせであるので、それぞれのバリエーションがよく聞こえることが重要です。私はスティーヴと一緒に演奏した時の感じが好きです、あまり角がなく、精確でありながら、機械で刻んだような精確さとは違います。各々のパターンがどのように進行しているかだけでなく、それぞれのパターンがどのように鳴り響いているかについても集中して認識しなければなりません。チャーミングであると同時に精確に聞こえなければなりません。

ライヒ:コリンが言ったことにまったくもって賛成です。1972年からずっと演奏している作品です。私は常に同じパート(変化しないパート)を演奏してきました。「変化しないパートを何度も何度もやっているなんて、楽なんじゃないか」と思われるかもしれません。たしかにそういう部分もありるかもしれません。しかし、あなたの隣の人が、 1、2、3、または4つの8分音符をずらして演奏している場合、特に変化が起こる場合に、アクセントの位置が変わってもまったく動じずに同じリズムを叩きつづけなければならないというプレッシャーに耐える必要があります。コリンが言ったように、からくりは非常に明確です。その音楽に乗りきらなければなりません。でなければ他の奏者とうまくかみ合わなくなります。私は80歳になりました。1970,80,90年代にやったときの方がうまくできたでしょう、しかしそうした現実すべてが演奏に含まれています。すべてが生きた音楽なのです。

アンディ:これは、コリン・カリー・レコーズの第3弾ですね。今後の予定についてお聞かせください。

コリン:レーベルを立ち上げた理由はドラミングを演奏するプラットフォームを作ることです。スティーヴの音楽をメインにすえていきたいと思っており、今後もそのようにする予定です。今後すべてのディスクにスティーヴの作品を入れたいです、そうすると毎年スティーヴ作品を含むディスクをリリースしていくことになります。その合間に私の他の一匹狼的なプロジェクトも実現させたいと思っています。第2弾はトランペットのスター、ハーデンベルガーとのシーン・オブ・ザ・クライムでした。レコーディングは大変でしたが、大変満足しています。第4弾が何になるかはわかりませんが、ライヒ作品では18人のための音楽を次に入れたいと思っています。それは聖杯の一部であり、そして、私のアンサンブルのメンバーは皆この作品に夢中です。シナジーのメンバーであるミカエラは、この作品のメッセージを広める上で非常に重要な存在であり、そうした人々と一緒にレコーディングをすることは素晴らしいことだと思うので、それが私が向かうところです。

アンディ:スティーヴ、アンサンブルのためのあなたのファンはもっともっと作品を聴きたいと思っています。今進行中のプロジェクトは何かあるのでしょうか?

ライヒ:実のところ、あります。私はその作品についてあまり具体的に言うことはできませんが、それはコリン・カリー・グループとシナジー・ヴォーカルズのための作品だということは今ここで言うことができます。私はLSOによって演奏された Music for Ensemble and Orchestraを発表しましたが、それはロサンゼルスでも演奏され、そしてデヴィッド・ロバートソンとシドニー交響楽団でシドニーでも演奏されています。とてもうまくいっているようです。しかし私は、ホームの人々と一緒に仕事をしたいと思っていました。そのホームとは、間違いなくコリン・グループとシナジー・ヴォーカルズです。自分があまりまだ人に言ってはいけないことについては話しすぎないようにするのが一番なので、ここでやめておきますが、20人ほどでしょうか、ちょうどよいサイズのアンサンブルのための作品になると思います。2021年秋に演奏が予定されています。

翻訳:キングインターナショナル