アーティストインタビュー

佐藤浩一 アーティスト・インタビュー

プロデューサー、ドラマー、作曲家の福盛進也主宰のレーベル"nagalu"。その第2弾として2021年11月30日に「Embryo」をリリース。
本作は日本の音楽シーンで独自の存在感を放つ孤高のピアニスト佐藤浩一の強固な世界観を打ち出した、演奏家・作曲家・編曲家としての新たな魅力を凝縮した充実の内容。
佐藤浩一自身リードタイトルとして5年ぶりの新録音ということで並々ならぬ思いを込めております。
ディスクごとに2台のピアノを弾き分け、様々なこだわりと"仕掛け"を施した2枚組のアルバム「Embryo」について、その誕生から制作秘話までを聞いてみました。
佐藤浩一 狩野真氏のアトリエにて.jpg

福盛進也主宰のレーベル"nagalu"の第2弾としてリリースされるアルバムですが、録音することが決まったきっかけを教えてください。

福盛氏とは2018年の1月に初共演して以来、心から信頼をする音楽家としてその後もたびたび共演を重ねて来ました。
2019年には福盛氏が当時住んでいたドイツのミュンヘンにも行き、一緒にレコーディングしたりもしました。(リリースは未定)
そのミュンヘンで福盛氏が「日本でレーベルを立ち上げたい。日本やアジアでしかできない音楽を、世界に向けて発信していきたい。」と語っていて、翌年の2020年にはそれが実現したことに大きな驚きと感動を覚えました。
そのときのnagaluの第1弾「Another Story」にもピアニストとして参加させていただいています。
そうした中で、福盛氏から「いずれ佐藤浩一のアルバムも作りたい」と提案をもらい、数ヶ月間にわたって一緒に構想を練り上げ、今年(2021年)の6,7月に、ついに録音することとなりました。


2枚組のアルバム「Embryo」ではDisc1「Water」とDisc2「Breath」というタイトルがつけられています。
タイトルはそれぞれどのような意味を持っているのでしょうか?

「Embryo」は「胎児」を意味します。レコーディング中のスタジオで、録音を聴いてくださっていたキングインターナショナルの平嶋さんから「まるでお腹の中にいるような感覚になる音楽だ」と形容してくださったことがとても印象的で、また自分自身にも6年前に娘が生まれたこともあり、このようなアルバムタイトルにしようと決めました。
ソロピアノのみを収録したDisc1の「Water」は胎児が母親のお腹(水に包まれている)の中から聴いているような音楽、アンサンブル編成で収録したDisc2の「Breath」はその赤ちゃんが呼吸をし始める外の世界で聴いているような音楽、ということをイメージしました。


今回の録音ではディスクごとに2台のピアノを弾き分けていますね。ソロはベーゼンドルファー、アンサンブルではスタインウェイですが、楽器を弾き分けた理由と調律について教えてください。(なおピアノの調律は故アルド・チッコリーニ(1925-2015)やアンドレアス・シュタイアー(1955-)など、世界的アーティストが絶大なる信頼を寄せている狩野真氏が担当しております。)

ソロとアンサンブルとで全く違う世界を作りたいと思っていました。
ベーゼンドルファーは以前からその個性的な粒立ちに魅力を感じていて、ソロを表現するのに面白いんじゃないかと思っていましたし、スタインウェイの繊細さと混ざりの良さは、アンサンブルにとてもマッチすると思っていました。
特に今回、ベーゼンドルファーには調律師の狩野さんにアイデアをいただき、一般的な十二平均律ではなく、いわゆる古典調律と呼ばれる調律(といっても私の曲の調性を考慮して、狩野氏が「ヴァロッティ音律」と呼ばれる調律法を応用した調律を考案してくださいました)を施しました。
これは初めての試みだったので、事前に狩野さんのアトリエにお邪魔して、この古典調律を施したピアノを試奏させてもらいました。
そのときの響きの違いは衝撃的でした。
これによって、現代のハーモニーの中では聴くことのできないような緊張と緩和が味わえると思います。

佐藤浩一 狩野真氏のアトリエにて.jpg


「Breath」では福盛進也をはじめ、市野元彦 (guitar)、甲斐正樹 (bass)、吉田篤貴 (viola)
Robin Dupuy (cello)など、実力派のアーティストと共演しています。このメンバーで生まれた音楽、とその魅力について教えてください。

人選については福盛氏とじっくり話し合いながら決めました。といっても私が一緒にやりたいと思ったアーティストについては100パーセント尊重してくれました。
福盛氏の提案で、特にエレキギターと弦楽器を入れたいというアイデアがあり、様々なバンドで長く共演して来て、その音色・ハーモニー・メロディーセンスなど全てにおいて信頼する市野さんにギターをお願いしました。
また、近年とても魅力を感じている弦楽器のアーティストにも入ってもらい、曲によっては弦楽カルテットとして演奏してもらいました。
チェロのRobinなどは、完全に譜面に書かれたいわゆる書き譜にも、譜面のない即興的な音楽にも精通していて、それによって非常に構築された音楽から自然発生的な即興音楽までアルバムを通して幅広く表現できたと思っています。
ヴィオラの篤貴くんはnagaluの兄弟レーベルであるS/N Allianceから自身のアルバムがリリースされたばかりで、とても情熱的に自身の音楽を作り続けている尊敬するアーティストです。
ベースの甲斐くんはほかの人にはない美的感覚や嗅覚のようなものを持ったアーティストで、現在ドイツ在住なのですが録音時はちょうど日本に滞在していたので、タイミングよく参加してもらうことができました。
今回参加してくれた全員が、その場で生まれる音楽を大事にしてくれるアーティストなので、とにかく耳をオープンにして臨んでくれ、とても繊細でなおかつ生き生きとしたテイクが録れました。

Aqua - Koichi Sato 佐藤浩一 | from Album【Embryo】
https://youtu.be/amB5wLI7cWc


録音中はスタジオの照明を極力暗くされていましたね。その理由やその世界から生まれる音楽についてお聞かせください。

もともと暗い場所で演奏するのが好きです。
視覚以外の感覚が、より研ぎ澄まされるからです。
聞こえてくる音も、明るい中で聴く音と暗い中で聴く音では違うような気さえします。
暗い中で聴く音には光のような煌めきを感じやすいです。
そして実は今回のアルバムのジャケットにも、暗闇の中で見るとちょっと驚くような仕掛けが施されています。(ぜひお手にとって確かめてみてください)

関口台スタジオ第1スタジオ 2021年7月1日.jpg


今後の活動についてお聞かせください。

2021年11月25日(木)、26(金)、27(土)と3日間にわたって丸の内COTTON CLUBでnagaluに関連するアーティストが出演するnagalu Festivalがあります。
その初日である11/25(木)に私のグループで出演します。
「Embryo」に参加してくれたアーティストがほぼ全員揃い、アルバムの世界観を存分に味わっていただけるのではないかと思います。
(アルバムの発売日は11/30なのですが、11/25は会場で先行発売します)
また私個人としては3日目の11/27(土)福盛進也Another Storyにも出演させていただきます。
さらに今後の抱負としては、「Embryo」から発展するような私の音楽を気に入ってくれる映画監督と出会って、いずれ映画音楽を手がけてみたいです。


佐藤浩一出演のnagalu Festivalの情報はこちら↓
https://www.kinginternational.co.jp/concert/20211025-2/

Embryo - 佐藤浩一はこちら↓
https://www.kinginternational.co.jp/genre/nagalu-003/

nagaluレーベルはこちら↓
https://www.kinginternational.co.jp/label/n/nagalu/

nagaluの兄弟レーベルS/N Allianceはこちら↓
https://www.kinginternational.co.jp/label/s/sn-alliance/

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