アーティストインタビュー

藤木大地 アーティスト・インタビュー 『400歳のカストラート』〜CD「いのちのうた」の源となる舞台

藤木大地さんは、2017年4月にウィーン国立歌劇場(ライマン:歌劇『メデア』)で、東洋人のカウンターテナーとして初めて殿堂デビュー。藤木さんのCD第1弾となるCDデビュー盤「死んだ男の残したものは」も、ウィーン国立歌劇場デビューにあわせてキングインターナショナルから世界発売されました。現在では、BS朝日「子供たちに残したい 美しい日本のうた」をはじめメディアにレギュラー出演されるほか、舞台でも、リサイタルからオペラまで、バロックからコンテンポラリーまで、幅広いレパートリーで活動を展開されています。
2021年11月には、待望の最新CD「いのちのうた」を発売されました。

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―――「いのちのうた」が発売されたのが2021年11月、半年ほどたちました。色々なメディアでも、このCDについては既にお話しくださっていますが、あらためて「いのちのうた」の録音を、いま振り返っていかがでしょうか?

今年もだんだんいい季節(好きな季節)になってきて、レコーディングからちょうど1年経ったな〜と考えていたところです。時間が経つのは早いですね。器楽奏者の皆さんのキャスティングを始めてから録音日程までは2ヶ月をきっていたのですが、最高の方々がご都合をつけて6日間も集まってくださり、本当によいものをみんなで世に出すことができたと思っています。辛抱強くお付き合いくださったスタッフの皆さんにもとても感謝しています。音、写真、ブックレットの文章、帯への言葉、もちろんあの熱い日々の思い出、どれをとっても人生の宝物のひとつと呼べる一枚です。

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「いのちのうた」録音にて(2021年6月)


―――発売日前後には、藤木さん自らが日本全国の都市にあるCD店に、おひとりで足を運んで、告知にご協力くださいました。

公演と公演の間の移動では、普段は最終目的地にしか降りませんが、あの時は移動圏内でご挨拶にうかがえるレコード店をレコード会社にピックアップしてもらって、どうやって途中下車できるかスケジュールをプランして、公演地のホテルに届けてもらった100枚単位の色紙にサインをして、自分の名刺をもって、ひとりで伺いましたね。棚を整理されているお店の方に突然話しかけるわけですから、場所によっては「本人キター♪───O(≧∇≦)O────♪」ってなりました。発売後にまた店舗に伺うと、愛だだ漏れる手書きPOPで大きくご紹介してくださっていて。嬉しかったです。博多、小倉、大阪、京都、名古屋2店舗、東京3店舗に伺えたのかな。大阪では、新大阪駅からレコード店までの往復の滞在時間が1時間半くらいで、せっかくなのにもったいないので駅でたこ焼きを買って新幹線に持ち込みました。
CDを買っていただける機会って、かつてはコンサートの会場でご購入いただいて、終演後にサイン会があることが多かったのですが、いまはそれができませんから。代わりになることを考えようと思いました。CD作りました、たくさん売りたいです、と誰もが思うけれど、実際に売ってくださる方がいるわけですから、可能な限りご挨拶に伺うのは当然のことです。
あとはレコード会社と共演者のお許しを得て、自分のホームページに「CD発送サービス」というページ(https://daichifujiki.com/cd-sale/)を作って、そこから申し込んでくださった方に宛名とサインを入れたCDをお送りすることもやっています。北海道から沖縄まで、アルバムが手元から日本全国に旅立っていき、聴いていただけることは幸せです。一枚一枚、感謝をこめて丁寧にサインしています。手作業です。

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―――6月下旬から、CD「いのちのうた」のいわば母ともいえる存在の『400歳のカストラート』公演がいよいよ始まりますね。あらためて、この『400歳のカストラート』とはどのような作品なのでしょうか?

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『400歳のカストラート』2020年の公演より

撮影:堀田力丸/提供:東京文化会館

2022年6月26日(日)東京文化会館公演 https://www.t-bunka.jp/stage/14257/

2022年7月3日(日)西条市総合文化会館 http://sogobunka.com/

2022年7月10日(日)四日市市文化会館 https://yonbun.com/performance/16365.html





多くの取材をしていただき、いろいろな描写をしていただきました。自分の言葉でひとことで表現するなら、僕の人生そのものでもあるし、あなたの人生そのものでもあるかもしれない舞台、と言えるかもしれません。そこが共感していただけるポイントの一つであると思います。

400歳のカストラート公演に関するwebでご覧いただけるおもな記事:

Mikiki~タワーレコード音楽レビューサイト(2022年5月31日掲載) https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/31747

ぶらあぼ (2022年4月27日掲載) https://ebravo.jp/archives/117106

ステージナタリー(2022年4月26日掲載) https://natalie.mu/stage/news/475458

Yahoo! ニュース(2022年4月26日) https://news.yahoo.co.jp/articles/58b07fcdbb893dab2f666d53161891ba4b54eda5

サンスポ(2022年4月26日掲載) https://www.sanspo.com/article/20220426-V2IASAF2YJILTIUMPB3QMICHGM/

中日スポーツ(2022年4月26日掲載) https://www.chunichi.co.jp/article/460167

東京中日スポーツ(2022年4月26日掲載) https://www.chunichi.co.jp/article/460167



2020年2月に東京文化会館で初演し、未曾有の出来事を全世界が経験する中、同じ年の12月には故郷の宮崎でも凱旋公演のような形で上演できました。実際に観ていただいた方々にはとても評判がよく、我が街で再演してください!というコメントがSNSに届いたりもします。大変ありがたいお言葉だけれど、出演者以外にもたくさんのスタッフが動いているカンパニーでして、自分たちでツアーを企画して伺える規模ではないので、ぜひお近くのホールにリクエストをしてみてください!
今回の地方公演は、音楽監督の加藤昌則さんとご縁の深い四日市市民会館では40周年記念事業にしていただきましたし、西条市総合文化会館の館長さんからも知人を通じてメッセージをいただいたりしています。
「よかった」「みたい」「みてほしい」そして「またやりたい」という強い気持ちが、これからの公演を実現することを心から願っています。これは僕から全国の劇場の企画担当の皆さんにも「手を挙げてください!」とお願いしたいことでもあります。


―――今回の一連の公演のメンバーの中には、録音には参加されていなかった方もいらっしゃいますが、10月にはCD録音のメンバーがそろっての公演も予定されていますね。

今回、奏者として変わらないのは成田達輝さんだけですね。ひとつには、僕はこの編成(ピアノ五重奏と歌)での演奏を、できるだけ多くの奏者の方に経験していただきたいと思っています。さらには、歌を含んだ室内楽というジャンルとして世の中に浸透させたい。「歌と伴奏」ではなくて。だから、これまで歌とあまり共演したことのない方にもその世界を初体験していただく必要があるのです。
もうひとつには、ずっと同じメンバーで仲良く演奏することはとても楽しいことだけれど、毎回少しずつ新しい刺激とか緊張感があれば、「いまここでしかできない/聴けない」感がより生まれると思うのです。これは歌手というよりはプロデューサー的な観点かもしれません。幸い、これまでにたくさんの素晴らしい奏者の方に知り合うことができて、あるいはまだ知り合っていなくても、今回はこの人と音楽をやってみたい!という方は大勢います。
10月に横浜、12月に福岡、来年も全国各地でこの編成での演奏会ができる予定です。


───初演は東京文化会館だったので、演出もその舞台機構が生かせるかたちでなされた部分もあると思います。今後、場所がかわっていくわけですが、そうすると、演出はどのようになっていくのでしょうか?

この企画は、のちのち全国や海外でのツアーを展開できるように、ポータブルなパッケージを作ろうという当初からのコンセプトが大きな特徴です。世界一小さなオペラと呼んでもよいかもしれません。そのコンセプトに賛同する平常さんが「ハイエース一台分」におさまる舞台美術を発明してくれました。これはとてもすごいことだと思います。
この「ポータブル」は、出演者の数も意味しています。歌手ひとりに朗読者がふたり、そして小さなオーケストラが5人という合計8人の出演者で最大の効果を生むために、平常さん、加藤昌則さん、そしてスタッフの皆さんと議論を重ねました。舞台上はそのような装置なので、どの劇場に運んでも同じ演出で上演できます。ただし今回の再演には平常さんが再び稽古に登場します(宮崎公演では演出助手の伊奈山明子さんが再演演出をしました)から、2022年版の演出は新しく生まれるかもしれません。
大和田獏さん、大和田美帆さんも、最初の頃こそ慣れない歌劇の制作プロセスに戸惑われたようですが、稽古を重ねるうちにみんなでファミリーのような関係を築くことができました。このことは獏さんが「いのちのうた」のブックレットに素敵な文章を寄せてくださっています。仕事場の雰囲気と満足度には、出演するアーティストひとりひとりの人柄と、仕事に対する姿勢も大きく影響していると思います。今回は周防亮介さん、東条慧さん、上村文乃さんがピアノクインテットに初参加してくださいますが、どんなファミリーに仕上がるのか、とても楽しみです。


―――横浜みなとみらいホールのプロデューサー in レジデンスとしての活動など、もはや「歌手」としての藤木大地だけではない存在になられつつあります。今後さらに挑戦していきたいことや、計画などはありますか?

ファーストアルバムのタイトルは名曲「死んだ男の残したものは」からいただきました。だからというわけではないけれど、僕はいつか歌わなくなるし、いつかは死にます。音楽に携わる人物としては、その時やそのあとに何かを残せているような毎日を、丁寧に過ごしたいと思っています。そのひとつがCDでもあり、ひとつひとつの演奏会の記憶でもあります。30代の頃は、大きな夢に向かって野心をもって走ってきました。いまはその時よりも俯瞰して物事を考えている気がします。かと言って、そんな自分を鼓舞する気持ちになることもありますけど。うまくいったことも失敗も反省も後悔もいろいろと経験して、日々の一期一会を丁寧に、というのがいまやりたいことでしょうか。


―――ありがとうございました。

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